2024/1/14


「3秒の至福の日のこと」


深夜なのか早朝なのか、3時半。

隣の布団でくずり出した息子を抱き上げる。
まだ眠りの中にいる人たちを起こしてしまわないよう、安心できる別の部屋に行く。

ふっくら柔らかな丸い体に、キルティングロンパース、その上にフリースのスリーパーをまとっているから、抱き枕のような、湯たんぽのような、
心地よくて温かな塊になっている腕の中の子。

この寒い時間帯にちょうど良くて、これは新しい冬のあったかアイテムかな、
なんて思いながら無意識に顔をうずめる。

ほんの少しだけ浸ったら、
反り返って抵抗し始めた子どもに、強制終了させられるたった数秒の情緒的な時間。

2024/1/10


「遡ってありがとうの日のこと」


ネットで見かけたある人の習慣に感化された父ちゃんの思いつきで、1ヶ月前くらいから寝る時に

「生まれてきてくれてありがとう」

と言ってから布団に入るようになった我が家。

今日、夜ご飯のあとに遊んでいると、娘が私に

「ママちゃん、生まれてきてくれありがとう」

と言った。


こちらが産んだ子から、そう言われるのは何だか変な感じだったけれど、
考えてみたら私が生まれてこなければ、あなたもいないし、あなたと出会うこともなかったね、と思った。


我が子のことは、いつもいつもかけがえのない存在だと思っているけれど、
今ここに自分が存在していることも、とてつもなく素晴らしいことだと、
そう気づかせてくれた日のこと。

2023/12/2 -2


「顔顔どんな顔の日のこと」


子どもはちっとも悪くないのに、第三者に心の余裕を奪われて、
急にガミガミとまくし立てはじめる時がある。

「早く片付けて!」
「もう時間ないんだから!」
「誰が散らかした?」
「自分でズボン履けるでしょ!」

急に呼び出され、急いで出発の準備をする。

大きな荷物を抱えながら車のドアを開けたら、中にいた娘に
「ママちゃん、怒った顔してる」
と言われた。そうですとも。

用事を終え、余裕がすっかり戻ったところで気づいて
「さっきは怒ってごめんね」
と言うと、
「でもママちゃん、車できくちゃんがゆうくん笑わせた時、もう怒ってなかったね」
と娘。

顔を見れば、もう全部わかっちゃうね。
どんな顔がどんな気持ちか。

2023/12/2 -1


「二人遊びするの日のこと」


弟が生まれて、いつになったら2人で遊べるかなぁと、
やっぱり期待する。

まだまだまだまぁだまだ、先だなぁ(遠い目)
と、思っていたけれど…

姉が、ひょうきんな動きや渾身の変顔をすれば、
キャッキャッと声を上げながら満面の笑みでリアクションを送る。
1回、2回、3回、4回。

姉がおどければ、そのたびに弟が笑う。
(私は2回までだなぁ笑)

おもちゃを使って一緒に、とかではないけれど、もう立派に“2人で遊ぶ”は
成立しているな、と後部座席からの賑やかな声を聞いて思った。

2023/11/22


「プチ・ミッションコンプリートの日のこと」


暗闇の中で、1発でミルクの位置を特定できた。
1発でオムツBOXの在処を当てることができた。

姉を起こさぬよう、
覚醒中の弟がこれ以上大きな声を出さぬよう、
物音ひとつ立てず、超人的な能力を発揮した私。

難解なミッションに挑むスパイのようだと、そんな情景を思い浮かべる。

ミルクとオムツを確保したら、
布団に埋もれている小さな体の所在を、両手の感触を頼りに確かめていく。

顔の輪郭を捉えた時の、ほっぺたの何という柔らかさ。

追い求めていたお宝が、自分の想像を超える代物で息を呑むスパイのようだと、
そんな情景を思い浮かべる。


2023/11/18


「世界一のサンドイッチの日のこと」


「起きろー」と威勢よく起こしに行ったのに。

気持ち良さそうなあくびにつられたら、もう一度布団の中に混ざってみたりする。

右と左を交互に向いて、まだボーッとしている顔たちを楽しみ、
“これが世界一贅沢なサンドイッチですね”なんて浸っていたら、娘が立ち上がり、
起きるのかな?と思ったら、真ん中に割って入ってきた。

そうだよね、そうだよね。
君もこのサンドイッチの一番真ん中になりたいよね。


2023/11/07


「見習うこと、見習わないことの日のこと」


運転中、無理に曲がってきたドライバー相手に、
「なに、この人」とつい文句を言ったら、

「怒らなくってもいんだよ、ママちゃん。
そういう時はちょっとよけて、って言うんだよ」と娘。
(保育園で教わったのだそう)

「そっかぁ〜。きくちゃんは優しいねぇ。ママちゃんも見習わなきゃ」
と言うと

「何ならうの?」

「見習うっていうのは、いいなぁってことを真似するってことだよ」と教えると

「じゃあこれは見習う?」と言って

半分白眼の変顔で「レロレロレロレロレ〜〜」

。。。それは絶対見習わない…


2023/11/3


「焼肉の代償の日のこと」


母の不在につき、父に夕飯に誘われる。
ビールを飲みたい父を私たちが、実家から店まで、店から実家まで
を送迎することになるけれど、焼肉のためなら喜んで。

ご馳走になった後、町務員の資料をコピーして欲しいともう一つ頼まれごと
をされ、実家に立ち寄る。
次回の焼肉のことも考えると、お安い御用です。

「この書類が1束で、何部ずつ・・・」と説明を受けている最中に、父の
携帯が鳴る。職場の人かららしい。

思いのほか長く、まだかな、と思ってから5分くらいはもう経っているけれど
まだまだ楽しげな声が聞こえる。

終わりそうな気配が微塵もないので、
帰ろう。詳しいプリント内容は後で確認すればいいや。
と、ジェスチャーで帰ることを伝える。

「まったく、お父さんは」
母親の口癖がまったく同じトーンで、自分の口からも自然と出た。

自宅の駐車場に着いたら、車の中に父の財布が転がっているのを見つけた。
「まったく、お父さんは」


近頃、ちょっと分からないからやってくれ、が増えた気がする。

今までは母に言えば何とか自分達でこなせていたけれど、最近はついに母も
時代の流れについていけなくなりつつある様子。


今朝、子どもの検診の書類を何枚か書いていて思った。

自分が小さくて何もできない頃、母や父は(多分ほとんど母なんだけれど)
何千回と私のための書類を書いたり、配られる資料に目を通したり、
そこに書かれている必要なものを用意して揃えたり、人のための膨大な雑務を
こなしたんだろう。


時間は流れて。
今度は、雑多な色々をどんどん出来なくなっていく親の代わりに、
私がやるようになる、その番がそろそろやってくるのかもしれない。

子どもの書類を書きつつそんなことを思ったら、不思議と自分に順番が
回ってくることは当たり前のことだ、と感じられた。


母を見れば、さらにその母のあれこれにまだまだ忙しそうだ。
そうやって次、次、次に循環していくのか、と一瞬だけ、ものすごく大きな
流れに浸ってみたりした。

2023/10/22


「ポップコーンに泣かされる日のこと」


バァバ、ジィジと泊まりでディズニーリゾートへ行った娘。

パークで買ったホップコーンがとても気に入ったらしく、テレビ電話の最中も
自慢しながらバクバク食べていた。

次の日も別の味を買ってもらい、でも
「家族に持って帰りたいから、少し残しておく」と言ったそう。

「おみやげにまた買うから全部食べていいよ。」とバァバ。
「また買う?」
「買うよ。」

でも結局30分待ちのポップコーンを買えるガッツも時間的余裕もなく、
帰りのバスに乗った御一行。

バスの中で、ポップコーンを買うことを忘れたと思い出した娘。

“ママとパパには他のお土産を買ったよ、と言ってもどうしてもホップコー
ンを食べさせたいみたいで、買わなかったのを悔やんでるよ。きくちゃんの
気持ちを考えると涙が出るね”

到着時刻を尋ねた私に、母からLINEの返信で、そんなやりとりがあった事が
伝えられる。

実家で皆の帰りを待っていた私。
静かな部屋で一人、キャラメルポップコーンに泣く日のこと。

2023/10/06


「これくらいがちょうどいい日のこと」


一人目と二人目では神経の擦り減らし方が全然違う。

一人目の時は逐一、息してるかな?と不安になり、ゲップさせるのも必死で、
出なければ体を右側に傾けて寝かせたり、苦しそうな咳をすればあたふた。

でも二人目になると、自分が寝ることに没頭する瞬間があったり、
抱っこの時に距離感を誤って頭を何かにコツンとしても、アハハごめなさいね、で済ませたり、「ミルク何時にあげたっけ?」ともっと把握していないだろう夫に聞いてみたり。


それでも今日は、深夜ふと目が覚めた時、あまりに静かすぎるので呼吸の音に耳を立てる。


それだけではよく分からなくて、そばまで行ってお腹に手を置く。
上下に動いてることを確認し、安心して自分の布団に戻った。


それからすぐ、「ウーン」という伸びとともに「ブブブブブッッ」というオナラの音が聞こえる。

数分前の私が、「おいおいおい笑」とツッコミを入れに引き返してくる気持ちになったけれど、子育ては肩透かしを食らうくらいがちょうどいいわ、
と笑いながら目をつむった。



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一人目の時、些細な事にもいちいち不安がっていた私。その時、知人が言ってくれた「赤ちゃんて、親が思うよりもずっと生命力高いよ。」という言葉。

生かすことに必死になりすぎて、子どもの生きる力の存在になんか意識も及ばなかった私。この言葉にハッとして、スッと気持ちが軽くなった、という出来事を思い出しました。