「焼肉の代償の日のこと」
母の不在につき、父に夕飯に誘われる。
ビールを飲みたい父を私たちが、実家から店まで、店から実家まで
を送迎することになるけれど、焼肉のためなら喜んで。
ご馳走になった後、町務員の資料をコピーして欲しいともう一つ頼まれごと
をされ、実家に立ち寄る。
次回の焼肉のことも考えると、お安い御用です。
「この書類が1束で、何部ずつ・・・」と説明を受けている最中に、父の
携帯が鳴る。職場の人かららしい。
思いのほか長く、まだかな、と思ってから5分くらいはもう経っているけれど
まだまだ楽しげな声が聞こえる。
終わりそうな気配が微塵もないので、
帰ろう。詳しいプリント内容は後で確認すればいいや。
と、ジェスチャーで帰ることを伝える。
「まったく、お父さんは」
母親の口癖がまったく同じトーンで、自分の口からも自然と出た。
自宅の駐車場に着いたら、車の中に父の財布が転がっているのを見つけた。
「まったく、お父さんは」
近頃、ちょっと分からないからやってくれ、が増えた気がする。
今までは母に言えば何とか自分達でこなせていたけれど、最近はついに母も
時代の流れについていけなくなりつつある様子。
今朝、子どもの検診の書類を何枚か書いていて思った。
自分が小さくて何もできない頃、母や父は(多分ほとんど母なんだけれど)
何千回と私のための書類を書いたり、配られる資料に目を通したり、
そこに書かれている必要なものを用意して揃えたり、人のための膨大な雑務を
こなしたんだろう。
時間は流れて。
今度は、雑多な色々をどんどん出来なくなっていく親の代わりに、
私がやるようになる、その番がそろそろやってくるのかもしれない。
子どもの書類を書きつつそんなことを思ったら、不思議と自分に順番が
回ってくることは当たり前のことだ、と感じられた。
母を見れば、さらにその母のあれこれにまだまだ忙しそうだ。
そうやって次、次、次に循環していくのか、と一瞬だけ、ものすごく大きな
流れに浸ってみたりした。